盗賊【其の三十九】

ある晩、博雅の家に四、五人の盗賊が入りました。

物音に気付いた博雅は急いで布団から身を起こすと板敷きの板をあげ、床下に潜り込みました。

奥さんや娘さんは、親戚へ行っていてその晩は留守でした。

盗賊は、誰もいないことをいいことに、手当たり次第みんな盗み出してしまいました。

博雅は盗賊が行ってしまった頃を見計らって床下から這い出ました。

見ると、着物も掛け軸もお金もみんなありません。

「ははは・・・よくこれだけ綺麗に持っていけたものだ」

博雅は大口を開けて笑いました。

「なまじっか、物を持っているから悪いのだ。人間は何も持っていないのがいい。どれ明け方までもう一眠りしようか」

博雅は寝床に入ろうとしましたが、何気なく枕元の厨子棚を見た時、普段から大事にしていた、竹の細笛が残っているのに気付きました。

「ありがたい。この笛には盗賊も気がつかなかったようだ。」

博雅は笛を吹きたくなりました。

博雅は立ち上がり、庭に向かって静かに笛を吹きはじめました。

およそ二、三十分も夢中になって吹いていましたでしょうか。

後ろに気配がして振り返ると、男が畳に両手をついて控えていました。

「さぞ驚きになったことと存じます。私は先ほどの盗賊です。どなたもいらっしゃらないのを幸い手下と一緒に欲しいものを持ち出しました。車に乗せて住処に戻ろうとした時、後ろからなんともいえないよい笛の音が聞こえてきました。はじめは何の気なく聞いていましたが、そのうち、だんだん笛の音に引き付けられ、一歩も前に進めなくなりました。今まで自分のしてきた悪い行いが、あなたのお吹きになる清い笛の音に対して恥ずかしくなりかけ戻って参りました。先生、どうか私の罪をお許し下さい。そして、私を弟子の一人にお加え下さい。」

博雅は盗賊の真心にうたれ、罪を許し、弟子にしました。