「『ことば』を使わずに考えてみてください。」
そんなことできるはずもないのですが、ある先生に問いかけられたこの一言で、普段何気なく使っていることばがどれだけ大切なのかを理解できた気がしました。
皆さんもぜひ一度試してみてください。
今回は中国南部にある大都市、「香港」の言語についてご紹介します。
香港は面積も人口も、だいたい東京の半分ぐらいです。
公用語は中国語と英語と定められていますが、主に広東語が話されています。
長年イギリスの租借地だった歴史があるため、英語の存在感が今もなお残っています。
その証拠に、公文書などでは中国語と英語が併記されているのが最も一般的で、もし両言語間に差があった場合は、たいてい英語を基準とするようです。
そんな香港では、「両文三語」という言語政策が掲げられています。
読んで字のごとく「二つの文と三つの言葉」という意味です。
「両文」は書き言葉の中国語と英語を指し、「三語」は中国語の標準語、広東語、英語の話し言葉を指しています。
日本語以外を使う機会が限りなく少ない日本に暮らす私たちにとって、なかなか想像しがたい状況だと思いますが、これが香港スタンダードです。
彼らの頭の中がどうなっているのか、のぞいてみたくなりますね。
もう少し詳しく紹介したいのが、中国語の標準語と広東語の差についてです。
広東語は中国語の方言ですが、なんと、両者間では全く通じ合えません。
広東語で「雞同鴨講」と表現するように、まさしく「鶏と鴨が会話する」のと同じです。
ですので、日本語の標準語と関西弁の関係ではなく、むしろ英語とドイツ語のそれに近いと説明しても過言ではありません。
一つ具体例を挙げると、標準語で数字の「一」は「yī( イー)」と発音しますが、広東語の「二」も「yi(イー)」と発音します。
香港に渡航予定の方は、くれぐれもお気をつけください。
現地の言語でトライしたいお気持ちもわかりますが、潔く英語でお買い物されることをおすすめします。
ここまで、限られた字数で香港の言語をご紹介しようと試みましたが、どうやら上手くいきそうにありません。
つまるところ私が言いたかったのは、日本に住む多くの人たちは、彼らの母語である日本語のみでコミュニケーションや情報収集ができる環境で生活を営んでいます。
世界との繋がりがどんどん強まっている今日。
もし皆さんの中に、世界の国々や言語に興味を持っている方がおられたら、まずはご自身の「ことば」に目を向けることから始めてみるのはいかがでしょうか。
この十数年、外国語とばかりに向き合ってきた私の母語能力が乏しいことを反面教師として、ぜひ磨きをかけてみてください。
冒頭の一言は、「『ことば』が世界を形作っている」という意味にも捉えられるのではないでしょうか。
またまた説明が飛躍してしまいました。(髙橋冬樹)