枕草子の雅楽に関した文章(旺文社 田中重太郎訳注)に注釈、それに、東儀俊美先生が「雅楽縹渺」という著書の中で書いておられる文章を紹介したいと思います。
枕草子 二〇五
舞は 駿河舞。求子、いとをかし。太平楽、太刀などぞうたてあれど、いとおもしろし。唐土に敵どちなどして舞ひけむなど聞くに。鳥の舞。抜頭は髪振りあげたるまみなどはうとましけれど、楽もなほいとおもしろし。落蹲は二人して膝踏みて舞ひたる。狛がた。
《注釈》
舞は 駿河舞(がいい)。(その中でも)求子がとてもおもしろい。
太平楽(という舞楽)は、太刀(を使用する点)など(こわくて)いやだけれど、まことにすぐれていて興味深い。
中国で(項荘と項伯と)仇敵同士で(この舞曲を)舞ったということを聞いているが。
鳥の舞。抜頭(の舞)は、頭髪を振りあげた(姿)目つきなどは(おそろしくて)いやな感じだけれども、楽の音もやはりまことに興深い。
落蹲(の舞)は二人で膝を突いて舞った姿(がいい)。
狛がた(の舞もおもしろい)。
《雅楽縹渺より》
「東遊」の舞は「駿河舞・求子舞」から出来、「久米歌」の舞は「久米舞・抜剣の舞」に分けられる。
東遊の「駿河舞・求子舞」は装束も素朴だが、舞も手と足の連動技が少なく、ほとんどが舞の基本的動作から出来ているのに加えて、拍子だけで舞えるという利点もあって、我々は舞の一番初めに習ったり教えたりする。ただし練習曲ではない。
この舞は一年を通じて宮中の祭祀では一番多く使われる舞の一つである。
また、出入りその他の作法が結構面倒くさい。
この東遊という曲は素朴な旋律と舞の中に何ともいえない情緒をたたえた良い曲である。
伴奏楽器は和琴と高麗笛に篳篥という取り合わせなのだが、高麗笛も篳篥を外来の楽器であることを感じさせない。