名器への幻想④【其の四十七】

(一)和琴わごん

鈴鹿…江談抄という本によれば「累代天皇の渡し物である」という。

河霧かわぎり…上東門院が持っておられた和琴とか。この楽器は『拾芥抄しゅうがいしょう』という書によれば、承平九年(九三八?)の目録に書いてある。とあり、萬治四年(一六六一)正月の禁裏きんり 炎上で消失したとなっている。承平という年号は七年までしかなく、また木の楽器が七〇〇年も残っていたというのも少々怪しいような気がする。

(二)筝

秋風… 延喜帝えんぎてい御物ぎょぶつだが、崩御の時山稜に納めたという。

洲濱すはま四辻公理よつじきみのり卿の物で、螺細紋らでんもんで洲濱があり、小野小町の筝だと言われるが、やはり萬治四年に消失したとある。

佐佐波さざなみ…伝えによれば、古くは小督局こごうつぼねが弾いたと伝えられ、玉戸の中に桐の紋があり、象牙で作られているとか。現在(元禄三年)嵯峨の新常寂寺にある。

(三)琵琶

玄上…村上天皇の御物ぎょぶつばちは水牛。撥面に馬上で打球たぎゅうをしているしょがある。

玄象…仁明にんみょう天皇の御物。紫檀槽したんそうの一枚板。撥面ばちめん黒象を書いてあり、唐の琵琶である。

虎…一説によれば佐藤忠信の琵琶で、常陸国ひたちのくに水戸の寺にあると言われる。

(四)笙

大蚶気繪だいかんきえ官物かんぶつ。管の上下に彫物があった。管の上に鳳凰が、管の下には一寸ほどの人形の彫物。(中略) 崇徳帝の保延四年(一一三九)内裏炎上の時焼失。

天暦てんりゃく…村上天皇御物。年号を名前にした。

空穂丸うつぼまる…別名を一名達智丸いちめいたっちまる。源義家愛用の楽器といわれる。

太子丸…二條家の重器。聖徳太子の作った笙といわれ、この名がある。

(五)篳篥

海賊丸… 和邇部用光わにべのもちみつの管。又の説によれば、雅楽寮の人々が宇佐神宮に向かう船に乗っていて海賊に襲われた。その時、茂光という楽人が小調子こちょうしを吹いたところ、海賊はその音に感じ入って退散した。それで海賊丸という。

波返なみがえし…官物。古い楽器だったが、萬治四年の禁裏炎上の時焼失した。