「自分にできること」
                                  主事  山本道朗

半年程前のこと、ふと立ち寄った本屋で一冊の本が目に留まった。

『お話、聞きます』という本である。おもしろいタイトルに引かれ、手にとって読んでみると、著者は元、吉本の芸人さんで、その本には彼が吉本を辞めて新たに始めた「路上で人の話し相手になる」というユニークな行いが書かれている。

筆者は路上に小さなイス二脚とテーブル、そしてその横に「お話聞きます・無料」と書いた看板を出す。すると通り過ぎる人の中から「私の話を聞いてもらえますか?」という人が現れ、彼はその人の話を最後までじっと聞いてあげるそうである。

この本にはそうして筆者の前に座って話をしていった人たちの様々な姿が書き連ねられている。この本を手に取った時、正直なところ私は「そんなところで話をしていく人が本当にいるのだろうか?」と思ったが、何と三年弱で一万二千人が話をしていったのだという。

また、筆者は「都会の住人たちが、こんなにも会話に飢えているなんて。想像はしていたけれど、正直言って驚いた。(中略)自分の話を聞いてほしい人がこんなにいたんだ」と記している。これは、世の中には人に相談できない悩みや苦しみを抱え、助けを求めている人がどれだけたくさんいるのかということを表している一つの姿だと思う。

私は以前、ある先生から「山本君、にをいがけに行った時、相手に何をお話したらいいのかと悩むだろう。でも、にをいがけで本当に大事なことは、相手に話をすることよりもその人の話を聞かせてもらうことなんだ」とお仕込み頂いたことがある。

またその先生は「この世の中に『悩み事が一つもない』という人は一人もいないんだ。みんな悩みを抱えて暮らしているんだ。その悩みを親身になって聞かせてもらうことは立派なおたすけなんだよ」ともお話下さった。

にをいがけやおたすけというと「それは私にはできない」と後込みしてしまう人が多い。しかし自分にもできるにをいがけやおたすけは、案外身近なところにあるように思う。

年祭活動は会長さんだけがすることではない。よふぼくみんなが我が事として、ご存命の教祖にお喜び頂くべく、自分にできる御恩報じを見つけて日々精一杯つとめさせて頂きましょう。


掲載:立教168年7月号