賃金の支払い、強制預金(その1):前川きよしげの法律相談

私は小さいながらも会社を経営していますが、最近の若い従業員を見ていますと、給料は飲食費やレジャーに使ってしまい、貯金している様子がありません。
「将来のことをよく考えて、貯金しておけよ」と、時折親心で注意していますが、やはり蓄えていないようです。
そこで、彼らのために、毎月の給与や夏冬の賞与から、一定額を「天引き」して、会社で彼らのために蓄えておいてやりたいと思います。
退職するときはもちろん、結婚したり、あるいは病気や怪我など彼らがおカネを必要とするときに引き出せても、ゴルフや旅行、遊興費などでは引き出せないようにして、彼らの資産形成を応援したいと思います。
このような給与、賞与からの「天引き」は許されるでしょうか?

折角の親心ですが、会社の一方的な判断で「天引き」することも、また労働契約とセットで会社が預金を預かること(強制預金)も、「労働基準法」で禁止されています。

【解説】

(労働基準法)
1 勤務する従業員の労働条件(賃金や労働時間等)は、本来は会社(※1)と労働者の「契約」に基づいて決定されます。しかし、労働者は働かないと生活できないことに鑑みますと、労働条件を会社と労働者との契約だけに委ねてしまったなら、「女工哀史」の悲劇の通り労働者条件は劣悪となり、労働者は低賃金、長時間労働を押し付けられてしまうことになります。そこで、労働組合法や、労働契約法など様々な「労働法制」が生まれ、1人1人では弱い立場にある労働者を保護しています。

※1  この後に述べる労働基準法その他の法律においては「使用者」と表現されています。個人経営の企業や協同組合などで働く者もいますので、「使用者」が正確ですが、分かりやすいように、今後も雇う側、経営サイドを「会社」、従業員、工員、店員その他使用者の指揮に服し、賃金を受け取って働く人たちを「労働者」と表現します。

そして労働条件に関しては、労働基準法が最低条件を定めています。労働基準法は第1条第2項において「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働契約の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」と、また同法第13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」と定められています。

つまり、労働基準法は労働条件の最低ラインであり、労働契約のうち、この最低ラインに達しない部分は契約としての効力が生じず、労働基準法の定める基準で労働契約の効力が発生するという意味です。

(賃金支払いに関するルール)
2 労働基準法の役割は1の通りですが、その上で、説例に関して検討しますと、まず第1に、労働基準法は、賃金の支払いに関して、会社は労働者へ①通貨で、②直接、③全額を支払わなければならないと定めています(第24条)。

第2に、労働基準法は、会社がおカネを預かり、管理することを「強制預金」として禁止しています(第18条)。
それ故、設例のケースは、経営者が若い社員らの将来を心配してのことではありますが、会社は労働者に賃金(給与や賞与)を「全額」支払わなければなりませんし、会社が労働者おカネを預かることも禁止していますので、会社が一方的に天引きして、預かることはできません。

その2に続く

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