手付(その2):前川きよしげの法律相談

問1

私は不動産業を営んでいます。Aさんから、Bさんの所有する住宅を購入して欲しいと依頼を受けて、手付も受け取りました。

私はAさんとの契約を履行するために、Bさんから住宅を購入して、私名義に登記も済ませました。

ところが、その後、Aさんから「手付を放棄するから、もうBさんの住宅は要らない」と言われました。

しかし、既にBさんの住宅を購入して、Bさんにその代金も支払っています。今さら手付を放棄してもらっても、私は大損です。

それでも、Aさんの手付放棄による契約解除は認められますか?

あなたが既に契約を実行するための準備に着手している以上、Aさんの手付放棄による契約解除は認められません。

解説

その1で説明しましたが、不動産など価格が大きい売買契約においては、契約に際して、買い主が売り主へ「手付」を支払うことがよくあります。手付が支払われた場合、買い主はその手付を放棄して、売り主はその手付を倍返しして、契約を解除することができます(民法557条1項)。

しかし、この手付解除をいつまでも認めていたならば、説例のように既に契約の義務を果たすための準備を開始していた当事者に思わぬ損害を与えてしまいます。そこで、民法は「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」、買い主はその手付を放棄して、売り主はその手付を倍返しして、契約を解除することができる(民法557条1項)と定めています。

したがって、説例では既にAさんへ、Bさんの住宅を引き渡すために、Bさんから住宅を購入するなど「履行に着手」していますので、もはやAさんは手付を放棄したとしても、売買契約を解除することは許されません。

問2

私は不動産業を営んでいます。Aさんから、Bさんの所有する住宅を3000万円で購入して欲しいと依頼を受けて、手付も受け取りました。

私はAさんとの契約を履行するために、Bさんから2500万円で住宅を購入して、私名義に登記も済ませました。

ところが、その後、Cさんから「私ならBさんの住宅を4000万円で購入する」と申し込まれました。Aさんに手付を倍返ししても、Cさんへ売った方が私は儲かります。

手付の倍返しによってAさんとの契約を解除できますか?

可能です。

解説

道徳的には違和感を感じる方も多いと思いますが、民法が手付放棄あるいは倍返しによる解除に関して「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と制限を設けたのは、契約の義務を果たすための準備を開始していた当事者に思わぬ損害を与えないためです。

説例では履行に着手しているのは「私」ですから、Aが履行に着手する以前であれば、「私」からは手付倍返しによる解除は可能です(最高裁大法廷判決昭和40年11月24日)。

 

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