手付(その1):前川きよしげの法律相談

私は3000万円の住宅を購入しますが、契約に当たって、300万円の「手付」を支払いました。残代金の支払い、いわゆる決済は1ヶ月後です。

私が支払った「手付」とは、どのようなおカネですか?

買い主であるあなたは手付の300万円を放棄すると、売買契約を解除することができます。

逆に、売り主は手付を倍返しして(このケースでは600万円支払ったら)、売買契約を解除できます。

解説

(手付の意味)
不動産など価格が大きい売買契約においては、契約時(契約書に売り主、買い主が署名、捺印する時)に、売買価格の1割程度を買い主が売り主へ「手付」として支払うことがよくあります。「手付金」と呼ばれることもあります。

手付は何のために支払われるのでしょうか?

契約書に趣旨が明記されていたなら、それに従うことになりますが、何も書かれていない場合は、買い主にとっては、その手付を放棄したならば、売買契約を解除することが可能になります(民法557条1項)。

したがって、説例では住宅は取得できませんが、残代金の2700万円を決済する必要がありません。一旦は契約したけれども、何かの事情で決済資金が用意できなくなった、あるいは、他にもっと有利な物件が見つかったので乗り換えたいという場合などで機能します。

売り主においては、手付を、「倍返し」することで、やはり売買契約を解除することが可能になります(民法557条1項)。

例えば、AはB対して3000万円で売り渡す契約を締結しましたが、その後、Cが4000万円で購入したいと申し入れた場合、AはBに手付を倍返しして600万円支払ったとしても(300万円を損したとしても)、Aの手元にはより多くのおカネが残ることになります。

(損害賠償)
ところで、Aは既にBと売買契約を締結しています。それにもかかわらず、Cが4000万円で買うと言っているからといって、Bとの契約を反故にしてしまうことは、形式的には契約の不履行に当たるはずです。既にBは住宅を購入したことを前提に引っ越しの準備等で費用を支出しているかも知れず、契約の不履行ならばAはBが支出した費用を損害賠償しなければならないはずです。

しかし、Bには手付300万円が戻ってくるだけでなく、「倍返し」で300万円が上乗せされて支払われます。損害賠償はこの300万円に含まれているとみなすこともできます。そこで、買い主の手付放棄による解除、売り主の倍返しによる解除ともに、相手方に対する損害賠償は不要と定められています(民法557条2項)。

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