子どもが他人に損害を与えた場合の親の責任(その2):前川きよしげの法律相談

今年、長男Aが小学校へ入学しましたが、他の子どもたちと一緒にクラスメートの甲君をいじめていたようで、階段の上から甲君の背中を押し、甲君は転倒して、ケガをしてしまいました。

私は、当然、親として責任を負わなければならないと考えています が、一緒に甲君をいじめていたB君や、C君の親は「子どもがやったことだ。自分たちに責任はない」と言って、治療費を負担しません。

B君や、C君の親の言い分が通るのでしょうか?

いいえ、通りません。
子どもがまだ6歳(小学校1年生)なら、親が「監督義務者」として賠償責任を負います。

あなたやB君、C君の親は治療費だけでなく、通院の交通費や、慰謝料、仮に後遺症が残った場合には、それによる逸失利益、甲君の親が甲君を病院へ連れて行くために仕事を休んだならば、その休業損害も支払わなければなりません。

解説

1(責任能力)
前回説明した通り故意や過失によって第三者に対して損害を与えたならば、「不法行為」責任を負い、第三者に生じた損害を賠償しなければなりませんが、行為者に不法行為に関する判断能力を欠いている場合(「責任能力」を有しない場合)は、賠償責任を免れます。
この考え方に基づいて、民法は①未成年者と、②精神障害者に関して、責任を免れる場合を規定しています。

2(未成年者)
未成年者に関して、民法712条は「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めています。
この「責任を弁識する知能」については、実際に起こった具体的な事件において、当該行為者が有していたか、否かが問題とされますので、成人年齢のように一律に何歳になったら有しているとは言えません。同じ年齢の者であっても、責任能力の有無に関して個人差があります。判例はおおむね12歳あたりで肯定していますが、やはり個々のケースによって結論は異なります。

3(精神障害者)
説例とは離れますが、精神障害者に関して民法713条は「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償責任を負わない」と定めています。やはり責任能力がないからです。「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」に至る原因は、精神病や、泥酔、知的障害など様々です。成年か、未成年かを問いません。また、その行為者が継続的に精神障害であることを要せず、その行為の時に精神障害であったか、否かが問題になります。

但し、普段は「自己の行為の責任を弁識する能力」を備えているにもかかわらず、故意、すなわち自らの意思で、あるいは自らの過失によって精神障害を招いた場合は、不法行為責任を免れません(713条但書)。自業自得だからです。 なお、ここに言う故意、過失は一時的に「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」を招くことについての故意、過失です。一時的に「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」になって、その上で加害行為を行うことに関する故意、過失ではありません。何故ならば、後者であれば民法709条によって不法行為が成立し、713条但書を置く意味がなくなるからです。

4(子どもたちの責任能力と親の責任)
さて、説例によると、甲君をいじめた子どもたちはいずれも小学校1年生ですが、2で述べた通り判例は12歳前後にならないと責任能力を肯定していません。したがって、A君、B君、C君ともに子どもたち自身は不法行為責任を負いません。

しかし、まだ幼い子どもたちが不法行為責任を負わないとしても、現に甲君はケガをしています。それなのに、甲君や家族は「泣き寝入り」しなければならないとしたら、不公平です。

そこで、民法は未成年者や精神障害者が責任能力を有しておらず、不法行為責任を負わない場合には、監督義務者が賠償しなければならないと定めています(714条1項本文)。

監督義務者とは、未成年者に関しては親権者です。成年に達しない子(20歳未満。民法4条)の親権者は父母です(民法818条1項)。父母が離婚する場合は、協議で、あるいは裁判で、父母のどちらか一方を親権者と定めます(民法819条1項、2項、5項)。

したがって、A君、B君、C君の父母(父母が離婚している場合は、親権者と定められたどちらか)は、甲君の治療や、入院期間中の雑費、甲君の通院費、甲君が被った精神的損害に対する慰謝料、もしも後遺症が残ったなら、それに対する慰謝料や、後遺症によって将来の収入が減ってしまったなら、その補填(後遺症によって得られなくなった収入を「逸失利益」と言います)、さらには甲君の通院に甲君の父母が仕事を休んで付き添ったならば、その休業補償等などを賠償しなければなりません。

→子どもが他人に損害を与えた場合の親の責任(その3)

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