子どもが他人に損害を与えた場合の親の責任(その1):前川きよしげの法律相談

子どもが事件を起こし、親が裁判で訴えられたニュースを観ました。子どもが誰かに損害を与えたならば、親が損害賠償をしなければならないのでしょうか?

子どもがまだ幼く、自らの責任を判断する知能を備えていない間、子どもを監督するべき立場にある親は、子どもが第三者に与えた損害について賠償する義務を負います。

解説

1(親だから当然?)
先日も親の責任に関する最高裁判決が大きく報道されました(最高裁判決平成27年4月9日)。子どもが校庭で蹴ったサッカーボールが車道に飛び出し、これを避けようとしたバイクが転倒し、運転していた男性が亡くなったケースにおいて、子どもの親が訴えられ、地裁も、高裁も親に損害賠償を命じましたが、最高裁がこれを破棄して、親の責任を否定したとのニュースです。かつて中学2年生の5人がいたずらで京阪電車の線路に置き石をして、電車が脱線したケースでは、最高裁は親の責任を肯定しています。

しばしば同様のニュースに接します。子どもが悪いことをしたなら、親が責任を負うのは当然と考える方も多いかも知れません。しかし、何時までも「親の責任」でしょうか。
そこで、①子どもが他人に損害を与えた場合、子ども本人は責任を負わないのか、②親が責任を負うのか、③親が責任を負うのは、どのようなケースかなどを、何回かに分けて説明したいと思います。

2(責任能力)
まず親の責任を説明する前に、子どもは責任を負わないのか、を説明します。
民法712条は「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めています。
何故このように定めているのでしょうか。

(1) 不法行為責任の前提として「過失」
その前提として、「不法行為」責任について説明します。
契約に違反して、他人に損害を与えた結果、賠償すべき場合を「債務不履行」と言います。

これに対して、契約関係にない第三者に損害を与えた結果、賠償すべき場合を「不法行為」と言います。
誰かに対して賠償責任を負うのは、この債務不履行と、不法行為しかありません。

それでは、他人に損害を与えたならば、常に賠償責任を負うのでしょうか。
例えば、あなたがとてもおいしいパン屋を開店し、大繁盛した、その結果、近所のパン屋の売り上げが落ちてしまったケースはいかがですか。
あなたの行為(おいしいパン屋の開店)によって他人に損害を与えています(近所のパン屋の売り上げ減)。しかし、もしもこのケースでもあなたに賠償義務が課せられるなら、誰も安心して日常生活を送ることができなくなってしまいます。

そこで、民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。これが「不法行為」責任の要件を定めた基本的な条文です。この民法709条に関する詳しい説明は別の機会に譲りたいと思いますが、要するに、他人に損害を与えたならば、常に賠償責任を負う訳ではなく、故意あるいは「過失」によって損害を与えた場合に限って責任を負います。これを「過失責任主義」と言います。

(2) 過失を問うための「責任能力」 
過失の意味に関しても学説は様々ですが、粗っぽく言えば「不注意」です。「不注意」とは、「その損害を避けるように注意すべき立場にあるし、注意していたら損害を回避できたにもかかわらず、その注意を怠った」と言うことです。「注意すべきだった」とか、「注意していたら」と評価する前提として、注意することができる能力が備わっていなければなりません。例えば、赤ちゃんがおねしょをして、あなたの洋服を濡らしたとしても、あなたは赤ちゃんに対して「不注意」だ=過失があると、叱れないのと同様です。

それ故に、先に引用した通り民法712条は未成年者が自分の責任を理解し、認識する能力を有していない場合は、その未成年者は賠償責任を負わないと定めています。

このように、ある行為の結果を予見し、回避するために必要な知能、判断能力を「責任能力」と言います。
民法は未成年者の責任能力とともに、精神障害者に関して「精神の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害加えた者は、その賠償責任を負わない」と定めています(民法713条本文)。犯罪を起こしたけれども、心神喪失などのケースでは刑罰を科さないのと同様の考え方です。

ここまで冒頭の①について説明しました。ここまで読んで、「なるほど理屈は分かったけれど、被害者はどうなるの?」と疑問をお持ちになったと思います。
そこで、被害者救済に関して説明しなければなりませんが、随分長くなりましたので、②、③は次回に譲ります。

→子どもが他人に損害を与えた場合の親の責任(その2)

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