「公序良俗」に違反する契約(その1):前川きよしげの法律相談

私は、妻子あるAさんと深い関係にありましたが、5年前、Aさんはやがて妻と離婚して、私と結婚すると「婚約」してくれました。ところが、未だにAさんは妻と離婚しません。私は、Aさんとの「婚約」に基づいて、Aさんに対して妻と離婚し、私と結婚するよう請求したいと思います。

「公序良俗」に反する契約、言い換えれば社会的妥当性を欠く契約は無効です。

解説

1(契約自由の限界)
近代市民革命は何よりも個人の自由を尊重し、契約の分野でも個人が自由に契約内容等を決定する、「契約自由の原則」を確立しましたが、個人の「自由」も決して無制限、無規律ではありません。民法第90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」と定めています。

なお、「法律行為」とは契約や、遺言など、当事者の意思に基づいて法的な効果が認められるものを言います。

2(公序良俗の意味)
「公の秩序又は善良の風俗」を法律家の間では「公序良俗」と呼んでいます。
民法の大家、故我妻栄東大教授は「公の秩序又は善良の風俗に反する」ことを一括して「社会的妥当性を欠くこと」と表現しました(民法講義Ⅰ270ページ)。分かりやすく言えば、その法律行為を有効とすることが社会秩序の上で適当ではないことです。

ただこのように整理したとしても、「公序良俗」の意味を一義的に確定することは不可能です。何故ならば社会秩序や道徳観念も、その具体的な内容は時代とともに変遷しますので、「公序良俗」の意味も「正しい結論」を導くため、時代とともに変化させなければならないからです。それ故「公序良俗」の意味を具体的に理解するには、実際の裁判において、裁判所が、何時、どのようなケースを「公序良俗」違反と結論付けたか、すなわち「判例」を知る必要があります。

3(性道徳、家族的秩序に反する行為)
従前から判例は性道徳や家族的秩序に反する行為、犯罪に関わる行為など基本的な倫理観に反する行為を「公序良俗」に反するとしてきました。

例えば、①妻と離婚したときは結婚する「婚姻予約」契約は無効です(大審院判決大正9年5月28日)。また②不倫関係が続いている間は返還しなくてもよいが、不倫関係が終わったら返還しなければならない金銭消費貸借契約も無効です(大審院判決昭和9年10月23日)。

これに対して、③不倫関係を解消する際に「手切れ金」を支払う約束(大審院判決昭和12年12月12日)や、④仮に将来離婚するに至ったときには一定の金銭を支払う約束(大審院判決大正6年9月6日)のように、正当な関係を維持、回復するため、道徳に反する関係を絶つための契約は有効です。

また⑤妻子ある男性が約7年間、半同棲関係にあった女性に対して、自分が亡くなったときには、その財産の3分の1を遺贈すると書いた遺言書は有効でしょうか。

最高裁は、男性と妻との婚姻生活が事実上破綻しており、かつ、この遺言は不倫関係を維持し、続けるためではなく、男性が亡くなったら生活に困窮する女性の生計を維持するために作成されており、かつ、財産の3分の1を女性に遺贈したとしても妻や子どもらの生活を脅かすことはないから有効だと判断しました(最高裁判決昭和61年11月20日)。

したがって、遺言書が不倫関係を続ける目的で作成されたり、内容が残された妻子の生活を困窮させるものであれば、無効になります。

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