「公序良俗」に違反する契約(その2):前川きよしげの法律相談

テレビの時代劇で出てくるような、借金のカタに娘を取り上げて、その娘を売春させるような契約は有効ですか?

実質は人身売買と、売春の強制、管理売春であり、もちろん公序良俗違反で、無効です。
借金も返済する必要はありません。

解説

1(芸娼妓契約)
テレビの時代劇に出てくるような、生活に困窮した親に金銭を貸し付けた上、その担保として娘を連れ去り、借金の返済に充てるという名目で、一定期間売春宿で客を取らせる契約を「芸娼妓契約」と呼んでいます。

戦前の判例は、この酷い契約に関して、①売春させる契約部分は公序良俗に違反し、無効であるものの、②金銭を貸し付ける、金銭消費貸借部分は有効であると判断していました。したがって、可哀想な女性に無理矢理売春させることを法律は強制しませんが、借金のカタに娘を取り上げるような因業な貸金業者は、なお親に対して借金の返済を求めることができました。

しかし、この結論は、今の私たちの道徳観念に照らして「正しい」でしょうか。

「借りたカネは返さなければならない」ことは、もちろん私たちの道徳観念ですが、他方で、生活に困って金銭を借りざるを得ない親と、親が生活に困っていることに乗じて、娘を取り上げて売春させる貸金業者とでは、どちらが「正義」に反するでしょうか。

戦前の判例のように、裁判になって売春を強制できなくなったとしても、貸したカネは返してもらえるなら、貸金業者は「ダメでもカネは取り返せる」と考えてしまい、人身売買を根絶することにつながりません。法律が保護すべきは貸金業者の債権ではありません。

3(判例変更)
そこで、最高裁(最高裁判決昭和30年10月7日)は従前の判例を変更して、芸娼妓契約に関しては、①金銭消費貸借の部分も、②売春させる部分も全体として「公序良俗」に反して、無効だと判断しました。

その上で、民法第708条は「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。」と定めています(これを「不法原因給付」と言います)が、この条文を適用して、親が貸金業者から借りた金銭も返還する必要としました。

前月号に「社会秩序や道徳観念も具体的な内容は時代とともに変遷しますので、「公序良俗」の意味も「正しい結論」を導くため、時代とともに変化させなければならない」と書きましたが、まさに「個人の尊厳」を保障する現行憲法(第13条)と、私たちの道徳観念の変化を反映した判例変更です。

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